辛味の科学

作成:2016/12/25

更新:2016/12/27

 

皆さんは、まるでセロリを食するが如く、生のワサビをそのままかじったことがありますか? 実際に試すと、ほとんど辛味を感じません。むしろ苦味ばかりが目立って、全く美味しくないことに驚く筈です。その秘密は、酵素反応にあります。

 

さて、ワサビの細胞内には、ミロシナーゼという酵素とシニグリン配糖体という成分が、それぞれ離れて存在しています。そして細胞が壊されてはじめて、両者が出会うことが出来ます。シニグリンはこの酵素に反応し、辛味成分であるアリルイソチオシアネート(AITC)等に分解されます(図参照)。因みにこのアリルイソチオシアネートは、天然の農薬として機能するので、このメカニズムは害虫による食害への防衛策と考えられています。

 

このことから、ワサビの辛味や風味を活かすには、細胞を壊すことが最も肝要です。事実、地元匹見ではこんな秘訣が伝わっています。「怒って叩くとワサビ漬が美味しくなる」と。そして壊し方が中途半端だと酵素が働かず、辛味や風味が乏しくなるだけでなく、シニグリンの不快な苦味が残ってしまうのです。尚、筆者の勝手な推測ですが、匹見のワサビが美味しいのは、ミロシナーゼの含有量が多く、苦味が残らないことが最大の理由と考えています。ビタミンCの含有量が多く、酵素作用が活性化されたのかもしれません。

 

ところでワサビの根茎とは、根が集まって太くなった部分を指します。一見根の様ですが、植物学的には茎です。この根茎の外側の方にミロシナーゼがより多く含まれているので、ワサビは外側の方がより辛くなります。逆に根茎の内側には、成長に必要な糖が多く蓄えられているので、食べると甘く感じるのです。辛い部分はワサビの根茎に限りません。葉や茎は勿論のこと、根や花そして種まで、全てが辛いのです。

 

<参考文献>

●木苗直秀他著、ワサビのすべて、学会出版センター、67頁、2006年

●中西載慶、シニグリン<1>、東京農業大学WEBジャーナル、2007年3月

 http://www.nodai.ac.jp/journal/nakanishi/0703.html

●中西載慶、シニグリン<2>、東京農業大学WEBジャーナル、2007年4月

 http://www.nodai.ac.jp/journal/nakanishi/0704.html

金印わさび機能性研究所、金印わさびが真剣に考えた! 健康・美容わさびレシピ、辰巳出版、2013年