チューブ入り練りワサビ

作成:2016/02/14

更新:2017/01/30

 

チューブ入り練りワサビが可能となったもっとも大きな点は、使用材料に表示してある糖類の種類にあります。それは、サイクロデキストリン(シクロデキストリンともいう)という糖類です。デンプンを原料に微生物の生産する酵素を使って作ります。この物質は、ブドウ糖が環状に幾つもつながっていて、バケツのような構造をしています(下図参照)。

ご存知のように、ワサビの辛味成分は、シニグリンから生成されるアリルからし油(正式学術名 アリルイソチオシアネート)です。この辛味物質は、揮発性ですから、時間の経過とともに、揮発して辛味は、どんどん減少していきます。当然わさび特有の他の香りの成分も揮発します。したがって、練ったわさびの辛味や香を長期間保持することはとても難しかったのです。当然、チューブ入練りワサビの製造も無理だったのです。ところが、上記のサイクロデキストリンという物質がつくられました。この物質は、上記のように特別な構造をしていますので、その物質の空隙の中に、辛味成分のアリルからし油や香気成分などを、かなりの期間閉じ込められることがわかりました。その結果、チューブ入練りワサビでも、辛味などを保持できるようになり、現在多くの家庭で使われるようになりました。

(以上、東京農業大学名誉教授 中西載慶様よりご寄稿頂きました)

 

それでは、チューブ練りワサビを製造している代表的な2社について、原材料名を見てみましょう。ハウス社は「環状オリゴ糖」、エスビー社は「増粘多糖類」という記載があります。ともにサイクロデキストリンの別名で、食品衛生法上の物質名となります。因みに田丸屋本店「静岡本わさび 瑞葵」にも環状オリゴ糖の記載がありました。

原料 エスビー 本生 本わさび ハウス食品 料亭生わさび 備考
 本わさび ワサビの茎部分(根茎部分は基本的に含まれない)
食塩  
3/コーン油 3/植物油脂  
ソルビット(ソルビトール) 人口甘味料・保存料、ミロシナーゼの活性阻害剤
澱粉 5/加工デンプン 4/でんぷん  
トレハロース   澱粉の老化防止、脂質の変質抑制、たんぱく質の変性抑制
ぶどう糖   甘味料
セルロース 食物繊維
酸味料    
香料    
サイクロデキストリン  10/増粘多糖類 8/環状オリゴ糖 辛味が揮発しにくい秘密の添加物
ミョウバン    
増粘剤 10/増粘多糖類 10/加工デンプン 粘性や接着性を付与
香辛料抽出物   11 唐辛子(カプサイシン)の可能性有り
キサンタンガム   12 増粘剤、安定剤
※番号は記載順(重量順/JAS法に基づく加工食品品質表示基準)、空欄は不使用を意味します。

以下は、世界最大のシクロデキストリン製造会社の日本総代理店の株式会社 シクロケム社のサイトから引用です。

 シクロデキストリンとは?:基礎編

 http://www.cyclochem.com/cd/001.html

 シクロデキストリン(cyclodextrin)は、「シクロ(cyclo=環状)」と「デキストリン(dextrin=オリゴ糖)」の合成語で、「サイクロデキストリン」、「環状オリゴ糖」ともいいます。また略称になりますが、アルファベットの頭文字を取ってCD(シーディー)とも呼ばれます。本添加物についてより詳しい説明は以下書籍まで。前述クロケム社の代表取締役による著書になります。

以下かきかけのメモになります。無視してください。

 

橋本顕彦・青山康司『酵素量のコントロールによるすりおろしワサビ中のアリルイソチオシアネート保持技術』2013年

http://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/122619.pdf

すりおろしたわさび中のAITCは時間とともに失われてしまうため、わさび特有の辛味成分がすぐに減少、消失してしまうことが問題となる。そのため、辛味成分の保持や安定化のために、pH 調整剤と水分活性調整剤との併用、ミロシナーゼの活性阻害剤として有効なソルビトールを添加する試みが報告されている。また、辛味成分を包接安定化する機能を持つサイクロデキストリンやビタミンCなどの酸化防止剤を添加するなどの工夫もされている。

 

上記原料の「本ワサビ」については、「本ワサビって何?」というコラムを参照ください(準備中)。

 

チューブ入り練りワサビには、根茎ではなく、極めて安価、かつ加工しやすい茎部分が使用されます。

 

●株式会社岩泉産業開発

http://www.ryusendo-water.co.jp/selection/wasabi.html

> このわさびは、主に茎を利用する「畑わさび」で、現在では練りわさびの原料として日本一の生産量を誇っています。

 

●テレビ朝日島根・益田市 ~単身移住でワサビ栽培~ 2016年2月15日閲覧

http://www.tv-asahi.co.jp/rakuen/contents/past/0240/

> 畑ワサビは主に加工用で、練りワサビなどに適しています。

 

●益田市『平成25年度 第1回 匹見地域協議会 会議報告書』2013年4月24日

http://www.city.masuda.lg.jp/uploaded/life/14683_34223_misc.pdf

> また加工場は金印製品も作っており、匹見ブランドで流通していない。

補足すると、金印社の求めに応じて別紙規格の通り、生産者は加工場に主に茎を出荷している。したがって、金印社内の製品は主に茎が使用していることは自然である。また、赤茎の出荷を認めない規格の存在は、その推測を保管する。

 

金印わさび機能性研究所 『 健康・美容わさびレシピ』 辰巳出版 2013年1月

> 22頁 わさびの根は加工用として使われ、捨てるところがない。