人工漂着物をひろってみよう!

 

佐々木さんに弟子入りして、貝がら拾いがすっかり好きになったアンちゃん。この日は益田市の津田海岸にビーチコーミングにやってきました。

アンちゃん「この浜には、ちいさなハマグリの貝がらが沢山おちているな。あっ、サクラガイもある。

あれ?あのおじさんは海岸のゴミ拾いをしているのかな?でも、うれしそうにゴミをえらんで持って帰っているなんてなんかあやしいな…声をかけないでおこう。」

おじさん「おや、おじょうちゃん貝がら拾いをしとるんかい?」

アンちゃん「(わっ!声をかけられちゃった!)そ、そうなんです…」

おじさん「貝がらもいいけど、浜べには他にもイイモノがあるんだよ。」

 

このおじさんは…

岩崎さん

 

津田海岸の近くに住んでおり、朝の海岸を歩いてビーチコーミングをするのを日課としている。

特に、普通の人はゴミと思ってしまうような人工漂着物を好んで収集している。

本業の建設業で培った技術を生かし、拾った漂着物を使って工作を作ることも得意としている。

アンダンテ21専務理事

「佐々木さんとおなじアンダンテ21の人ならひとまず安心そうね。でも、岩崎さんはなんでゴミを拾い集めているんですか?」

「君が佐々木さんが言ってたアンちゃんかい。でもこれがゴミにみえるようじゃまだまだだね。これもれっきとしたビーチコーミングじゃないか。拾うのは貝だけじゃないんだよ。」

岩崎さんがひろった漂着物の展示

岩崎さん 「”ゴミ”っていうと、人間のだしたもの、人工漂着物(じんこうひょうちゃくぶつ)のことだよね。人間が海や川に捨てたり落としたりしたものが、海岸に流れついてくる。本来の自然の姿にはあってはならないものだけど、人間が生活している以上、人工漂着物があるのは仕方ないよね。これをだだのゴミととらえてそうじするのもいいけど、楽しみを見出しながら拾うと面白くなる。海岸もきれいになるし一石二鳥だよね。」

アンちゃん「でも、やっぱりゴミにしか見えないなあ。」

岩崎さん 「例えば、外国語が書いてあるものを拾ったら、これは母国でどんな風に海に流れて、どういう航海をしてたどり着いたのかを想像してみたりね。島崎藤村という作家の〝椰子の実″っていう詩があるけど、そんな感じかな。」

アンちゃん「おじさんは想像力が豊かなのね。」

 

人工漂着物の中にある「お宝」

「人工漂着物というと、汚いものばかりのイメージがあるけど、こんなキレイなもあるんだよ。たとえばこれを見てごらん。」

「わ~、きれいな石!」

「がはは、これは石じゃないんだよ。海岸でひろったガラスで、〝シーグラス″とか〝ビーチグラス″っていうんだよ。ビーチコーミングの中でも人気の漂着物でコレクターもいる。ワシもその一人だよ。」

アンちゃん「たしかにガラスびんによくある色のものが多いわね。でも、なんでこんな形になるのかしら。」

岩崎さん 「例えば、だれかがビンを海に捨てるとするだろう?そのビンが、波で岩に打ちつけられたりして割れるよね。そのはへんが、また波や砂にもまれて、角がとれてすりガラスのような質感になるんだよ。この風合いは人が加工してもなかなかだせないよね。」

アンちゃん「シーグラス一個ができるまでにも長い時間のドラマがあるんだね。」

 

岩崎さん 「これは何かわかるかな?」

アンちゃん「わ~、これもガラスですね。きれいなガラス玉。でもなんでこんなものが落ちてるのかな?」

岩崎さん 「これは〝瓶玉(びんだま)″というものなんだけど、漁師さんが昔、漁をする時にあみにつけるウキとして使っていたものだよ。最近ではガラスではなくて発泡スチロールのウキが使われるようになったけどね。それが切れて流れ着いたものが、今でもたまーに拾えるんだよ。」

アンちゃん「レアなものなんですね。」

岩崎さん 「たとえば電球をいれて照明にしたり、インテリアに使うために高価で取引されているんだよ。」

 

岩崎さん「これが、現在漁に使われているウキだね。はっぽうスチロール製のものがほとんどだよ。ビーチコーミングをしているとしょっちゅう出会う。」

アンちゃん「ガラスは重くて割れやすいけど、これなら軽いし割れる心配もないわね。」

岩崎さん「科学の進歩で漁師さんの仕事も楽になっているんだよね。でも、海に流れ出た発泡スチロールのようなプラスチックが小さくくだけて、海に悪い影響を与えることもあるんだ。後から説明するけどね。」

 

アンちゃん「あっ、魚釣りに使うウキがあるよ。こっちにはルアーもある。」

岩崎さん「魚釣りや漁に使う道具もビーチコーミングでよく拾えるよ。まだ使えるものも多いから、釣りが好きな人にあげよう。」

アンちゃん「拾った釣り具で魚が釣れたらもうけものですね。」

岩崎さん「ふしぎとこういうものほどよく釣れるんだよね。釣り針がついてることもあるから気を付けてね。」

 

アンちゃん「この黒いプラスチックの円すい、海岸によく落ちているんだけど一体何なんですか?」

岩崎さん「これも漁の道具だね。餌を入れた筒の入り口にこれを取り付けて海に沈めておくと、餌をたべに筒に入った魚が出られなくなるという仕組み。」

アンちゃん「どんな魚をとるためのものなんですか?」

岩崎さん「外国のアナゴ漁によく使われるんだけど、日本の海岸に流れてくるみたい。」

 

「小さな悪魔」マイクロプラスチック

「浜辺をよく見ると、砂の中に小さな透明のつぶつぶがたくさんあるな。これは人工物なのかな?」

「これは『レジンペレット』というものだよ。目を凝らしたら、たくさん砂浜に落ちているだろう?もちろんこれは海が運んできたもの。全世界の海岸や川で同じ状況が起こっているよ。」

アンちゃん「でも、これは一体何をするためのもので、どこから来たの?」

岩崎さん「これは、石油からプラスチック製品を作るときの『中間材料』と呼ばれるものだよ。このような小さい粒を作る業者があって、別の業者がこれをとかして製品に加工しているんだ。中間原料を運ぶときにこぼれてしまったり、排水にまじったり…小さなものだから、流出してしまうといずれ海まで流れていってしまう。なぜだか分からないけど、とにかくたくさんの量があるのは確かだよ。」

アンちゃん「どれくらいの量が海に流れているんですか?」

岩崎さん「アンダンテ21が行った調査では、ここ津田海岸では多いところで1㎡あたり30個、益田川の河口では1㎡あたり5000個もの密度でレジンペレットがみつかったんだ。世界全体で考えれば…とんでもない量だよね。これからもどんどん増えていくだろう。」

 

アンちゃん「そんなにたくさんあるんですね。でも、それでなにか問題があるんですか?」

岩崎さん「レジンペレットを含む、小さなプラスチックの破片を『マイクロプラスチック』というんだけど、このマイクロプラスチックが海の環境に悪い影響をあたえているのではないかと言われているんだよ。小さなプラスチックが海の中をただよっていると、魚や鳥がエサと間違えて食べてしまう。プラスチックは消化できないから魚や鳥のおなかにはプラスチックがたまってしまうよね。排泄できたとしても、マイクロプラスチックには有害な化学物質を吸着(きゅうちゃく)する作用があるので、有害物質が体の中にたまってしまうんだ。」

アンちゃん「こんなに小さいものでも、やっかいなんですね。」

岩崎さん「小さいからこそやっかいとも言える。大きなごみは魚も食べないし拾えばいいけど、小さくなったものは全部拾うことは不可能だからね。」

 

アンちゃん「マイクロプラスチックってこわいのね。へらす方法はないのかな?プラスチックを使わなければいいんじゃない?」

岩崎さん「プラスチックを使わないなんてできると思うかい? 普段、どんなプラスチックを使ってるか考えてごらん?」

 

 

アンちゃん「ペットボトル、ビニール袋、学校で使う文房具、お弁当ばこ…わ~、よく考えるとほとんどプラスチックだ~。」

岩崎さん「服も、家具も、家電も、乗り物も…身の回りのものはほとんどプラスチックが使われているだろう? プラスチックを使わない生活は絶対にできない。」

アンちゃん「でも、使う量を減らすことはできますよね。」

岩崎さん「そうだね。ペットボトルやレジ袋を使うのをやめて、マイボトルやマイバッグを持つとか、壊れやすい安いプラスチック製品をなるべく使わない…とかね。僕らができることはそれくらいじゃないかな。でも、みんなが心がければ、かなりのプラスチックごみが減るはずだよ。」